ここは香港。その男は港の一角にある倉庫の中から現れた。「フッ、口ほどにもない連中だったな。」男の口元は、冷酷な笑みを浮かべている。倉庫の中では数人が血まみれになって倒れていた。すべてこの男のしわざなのだ。
「相変わらず見事ですね。」
背後からの声に、男は振り向いた。
「秦の秘伝書(※)の所在はわかったか?」
「はい。サウスタウンで秘伝書の1つが確認されました。」
「ほう、サウスタウンか...。あそこは、ギースとかいう奴が牛耳っていた街だったな。確か奴は死んだと聞いたが。」
男の口ぶりには、すでに勝ち誇ったような響きがあった。
「サウスタウンにキング・オブ・ファイターズ...。なるほど、すべては、秘伝書が引き起こしたのかもしれんな。」
その夜、男はサウスタウンに向かうために香港を発った。
「この街もずいぶん変わったな。」
謎の男が香港を発った頃、サウスタウンのメインストリートを走り抜ける車の後部座席に一人の人物がいた。
「あれから大勢の無法者たちが流れ込み、以前より物騒な街になりました。しかし、タワーは健在ですので、ご安心を。」
助手席の男、ビリー・カーンが答えた。
「そうか。私のいない間にそんなことに...。フフフ、市長や警察署長もさぞ苦労していることだろうな。」
「皮肉にもボガード兄弟のやったことが裏目に出た訳です。」
「しかし、この街もすぐに元通りになる。このギース・ハワードの手によってな。」
ギースの言葉にビリーがうなずく。
「ギース様、見えてきました。」
車は、夕闇にそびえるギースタワーをめざして走る。
「見ているがいい。これからが私の新しい野望の始まりだ。」
「俺の姿を見たら、リチャードの奴どんな顔するかな。」
さっきまでテリー・ボガードは、親友の顔を思い浮かべながら懐かしさに浸っていた。パオパオカフェ2号店オープンの知らせを旅先で聞いたテリーは、祝福のために武者修行を中断してサウスタウンに帰ってきたのだ。だが、街に入って現実を見るにしたがって、テリーの表情は次第に曇っていった。
「このザマは、何だ。あの頃よりもひどいじゃないか...。これもすべてギースという力をなくしたせいだと言うのか...。」
複雑な思いで街を歩くテリーは、やがてギースタワーの前にやってきた。 昨日のことのように死闘の記憶が蘇ってくる。
(ギースよ。お前は、俺のことをあざ笑っているだろう...。だが、見ていろ。この街は俺の手で守ってみせるぜ!)
しかし、テリーは知らない。タワーの主、ギース・ハワードが復活を果たしたことを。そして、さらなる恐ろしい敵がサウスタウンに乗り込んできたことを...。
※始皇帝の時代の中国に伝えられた3本の秘伝書のこと。最強の格闘家のみが手にすることができると言われ、3本すべて揃ってこそ本当の意味を持つという。2千年以上の時を超えた現在、秘伝書は世界各地に散らばって、最強の格闘家が現れるのを待っている...。