競馬狂の父の影響で、まだ年端も行かない少年の風体をしているが、そこらの競馬通も顔負けという男の子が独り言のように言った。
「僕も騎手になって『ナリタブライアン』みたいな強い馬に騎乗(の)ってみたいなぁ。」
「ブライアンか、確かに強いな。けど『皇帝シンボリルドルフ』には勝てないだろうな。」
「何言ってんだよ父ちゃん!絶対ブライアンの方が強いよね叔父ちゃん?」
子供に叔父と言われた男は、わざわざ大阪から暮れの大レース『有馬記念』を見るためだけに上京し、居候をしている少年の父の義弟だった。男は少年の問いかけに答えた。
「確かにブライアンはめっちゃ強いで。けどな、ほんまの競馬好きは逃げてなんぼの馬が好きなんや。おっちゃんは、日本馬で初めてJCを制した関西が世界に誇る『カツラギエース』が一番強いと思とるんや。」
「何だよ、父ちゃんも、叔父ちゃんも本当に強い馬を認めないなんて。もう寝る。おやすみっ!」
少年は怒って自分の部屋へ行ってしまった。少し慌てた表情で男は言った。
「わしもやけど、義兄もいらんこと言うから見てみい、怒ってもうたで。ほったらかしといてええんかいな。」
「いいんだよ、どうせ寝たら忘れるって。それより明日のことだけど……。」
そんな大人たちの会話も知らずに、少年はふてくされて寝てしまった。ふて寝した少年はある夢を見ていた。それは過去にGIで勝った最強馬が集められて行われるレースに自分が乗っている夢だった。しかも、『凱旋門賞』が行われる、フランスのロンシャン競馬場のゴールを駆け抜けて行く姿だった。
少年は、その夢に満足するように健やかに眠り続けた。いつの日か、本当にその日が訪れることを信じて!!