韓国チームストーリー

 「なんでアッシだけキング・オブ・ファイターズに参加できないんでヤンスか!」
「そうだぜ! なんで俺だけがジョンのダンナとキムのダンナのお供なんだよ!」
 甲高い声と野太い声が交互に響き渡った。
 キムのテコンドー道場で長年更正され続けている二人の男、チョイ・ボンゲとチャン・コーハンは怒っていた。数年前はここから逃げ出すことばかり考えていた二人が、随分殊勝になったものである。これも真心こもったキムの更正が実を結んだ……わけではない。

 ひとり残されるチョイは、
(留守中、家事一切を任された上、最近めっきりやんちゃになったキムのダンナの二人のガキ……もとい、お子様の子守りなんてまっぴら)
 なのであり、チャンといえば、
(犬猿の仲のダンナ二人の間に挟まれて、一人で右往左往なんてゴメンだぜ)
 なのである。

「はっはっは。チョイのそのやる気だけで嬉しいよ。しかし今回はジョンさんのたっての頼みなんだ。我慢して留守番してくれたまえ」
「しかしでヤンスね」
「し・て・く・れ・た・ま・え」
 腕組みをしたキムの歯がキラリと光った。
 もう一言でも口答えすれば、更正という名の鳳凰脚が炸裂することになるだろう。
「……わ、わかったでヤンス」
「はっはっは。何事も誠意を持って話せばわかってもらえるものだな!」
「誠意で青アザ作られちゃたまらないでヤンス」
「まったくだぜ」
 蚊のなくような小声だったが、キムは聞き逃さなかった。
「何か言ったかね。二人とも」
「修行は楽しいぜ、って」
「話してたんでヤンスよー」
 チャンとチョイは、間髪入れずに答えた。
 満面の笑顔が哀しい。
「はっはっは。そうだろうそうだろう」
 二人はキムをはばかって、小さく素早くため息をついた。かつて極悪人だったとは思えないつつましさであり、小心さである。

 今さらながら説明すると、大鉄球がトレードマークのチャン・コーハンは怪力の脱獄囚。
 鉄の爪がチャーミングなチョイ・ボンゲが元切り裂き魔。
 その二人を「正義の道に立ち戻らせるため」テコンドーを通じ更正させようとして幾年月。いまだ更正終了に至らないのがキム。
 そしてそのキムと、あまり仲のよろしくないライバルがジョン・フーンである。

 そのジョンが言った。
「すまないねチョイ君。今回のKOFだけは、どうしても参加しなければならないんだ」
「しかしジョンさんがこれほど執着するとは……一体どんな理由が?」
 ジョン・フーンは端正な顎を引いて、目を閉じている。
(ふふふ、今回のKOFは新ルールの導入で自由交代が可能とか)

 ジョンの目論見はこうである。
 今までは3対3といってもそれぞれ個別の試合形式だったが、今回は自由交代制。
 つまり、キムが追い詰められた場面で颯爽と自分が登場し、彼を救助した上、華麗に相手を倒すことにより、自分とキムとの力量差を世界に周知させることができる、と。もちろん建前は違う。
「我が国から出場するのはどうやらキム君の1チームのみ。ということはこのチームの編成は、何よりもベストメンバーでなければならないはず。そうですよね?」
「まぁそれは確かに」
「チョイ君もここ数年で腕をあげたが、まだまだ私には及ばない。それはチャン君も同様だが、彼は格闘スタイルがキム君とも私ともかけ離れていて、チームを組む上ではちょうどいいアクセントになります」

「ちょっと、チャンのダンナ」
「なんだよチョイ」
「今回のこの組み合わせですがね……もしかしたらチャンスかもしれないでヤンスよ」
「なんでチャンスなんだよ。あのダンナ2人の性格からして、今回いくら俺ががんばったって、俺だけ自由の身ってことはありえねえぜ。もちろん、お前と同時に自由の身なんてのは200%ありえねえ」
「そこは頭の使いようでヤンス」

 チョイの目論見はこうである。
 世間はスポーツと涙と友情の三点セットに弱い。
 そこで今回の大会終了時、そこにいないと思われていた自分が姿をあらわし、『実は気になってずっと見守っていたでヤンス』などと泣かせるセリフを言う。それに合わせてチャンの方でも演技してくれれば、根が単純なキムをだますことなど簡単だろう。
「そこでさりげなく更正終了をアピールするでヤンスよ」
「なるほどな、情に訴えて、さらにそれをTVが煽る……それはいいかもだぜ」
「でヤンスよね? 今度こそは自由の身になれそうでヤンス」
「そうと決まれば今度の大会では大暴れしねえとな」

 キムは不安だった。
 今回のKOFではチームワークが重要なポイントになるのは明白だ。
 チャンとチョイであれば、すでに気心が知れているが、ジョンとはどうにも馬が合わない。その隙を攻められたらあっという間に敗北が待っている。しかし……

 キムの目論見はこうである。
 確かにジョンを交えたチームでベストの力を発揮できるかと言われれば難しいだろう。
 が、そこは最強のテコンドー使いである自分の頑張りで切り抜けられないものでもない。
 ここは逆に交代制を利用して、『ジョンのピンチを自分が助け、恩を売る』ことで、何かとやかましかったジョンの口を今後封じることができるのではないか。
 何せ衆目に晒された場所で決定的な貸しを作ってしまえるのだから効果も倍増である。
 しかしもちろん建前は異なる。
「まぁジョンさんがそこまでおっしゃるなら」

 正義を前面に押し出したチームの割に、それぞれが腹に黒い考えを抱きすぎているような気がしないでもないが、とにもかくにもメンバーの意思統一は成された(?)。

「ダンナ、アッシも納得でヤンスよ。今回はチームを離れて、健闘を祈るでヤンス」
「わかってくれたかチョイ」
「もちろんでヤンス。離れててもアッシたちはチームでヤンスよ」
「おお! その考えこそ、長年の更正が実を結んできた証だな!」
「俺もチョイの分まで頑張るぜ!」
「チャン君も前向きな……これは私も負けられませんね」
「表彰式には必ず顔を出すでヤンスから、忘れないでくださいでヤンスよ」
「もちろんだとも。はっはっはっは」
「はっはっはっはっはっは」

 四者四様の(割とダークな)思いを胸に秘め、彼らは何度目かのKOFに赴くこととなった。大会へのエントリーも(チャンの鉄球の輸送問題を除いて)ごくスムーズに行われたらしい。
 
キム
チャン・コーハン
ジョン・フーン
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THE KING OF FIGHTERS 2003