欲望と野望が渦巻く街、サウスタウン。
力ある者が明日のために己を懸け、信念なき弱者は夢に破れて屍をさらす―この野生の法則だけが、この街のたったひとつの掟であった。
この街に道場を構えて幾年―極限流空手師範、タクマ・サカザキもまた、この街の弱肉強食の掟を生き抜いてきた人生の猛者のひとりである。
「立てい!リョウ!それしきのことで漢が務まるか!」
道場内、タクマの慄然とした瞳の先に、そのリョウと呼ばれた少年はいた。
「・・・だめだ、だめだよ・・・ボクには無理だ・・・父さんみたいに強くはなれないよ・・・」
涙に震えしなだれる金髪の少年――その者こそ、将来「無敵の龍」と呼称されることになる偉大な格闘家、リョウ・サカザキであった。
「女々しいぞ!自分の限界を見極めもせずに、はなっから諦めて何とする!」
タクマの憤怒の拳が、リョウに向かって唸りを上げる。
「せ、先生っ!もう堪忍したってや!リョウには・・・リョウには武術は向いてないんや・・・」
膝を落とすリョウをかばうように、タクマの前に一人の少年が立ちはだかった。
彼の名はロバート・ガルシア。イタリアの大資産家アルバート・ガルシアのひとり息子である。
父、アルバートの示唆により、ロバートは帝王学の一環として極限流道場に入門し、タクマを師と崇めている。
「・・・リョウ、お前が自分自身に打ち勝たぬ限り、お前の人生は始まらないのだ・・・本当の「強さ」とは何であるか、しかと心で感じ取るがよい・・・」
タクマはそれだけ言い残すと、リョウたちに背を向けて去って行った。
「・・・げ、元気だせやリョウ・・・あんまりしょげてると、ユリちゃんに笑われるで」
友人のそのなぐさめの言葉に、今のリョウにはただ力なく頷くことしか出来なかった。
その日の夜のことである。
外出したタクマと妻、ロネットが不慮の交通事故に巻き込まれるという事件が起こった。
幼い妹を連れて病院へ向かったリョウは、そこで悲しい現実と直面する。
・・・母は既に帰らぬ人となり、加えて、事故直後からタクマは消息を絶ってしまったのだ。
この日から、幼い兄弟のたった2人の生活が始まった。
道場は門をとざされ、親友のロバートは一時サウスタウンを離れることを余儀なくされた。
「・・・リョウ、ワイは必ず帰ってくる。それまでユリちゃんのこと、しっかり頼むで」
ロバートのその言葉を忠実に守るかのように、それからのリョウはユリを守るためだけに生きた。
ユリの笑顔のため、ユリの幸せのため、リョウは様々な修羅場をくぐった。
賭けストリートファイトでアザの耐えない日々が続き、何度も自分の無力さを呪う夜が続いた。
しかし、そのたびに思い出される父の言葉と、ユリの笑顔に励まされ、リョウは「拳だけでは知ることの出来ない、人間としての強さ」を育みつつあった。
「オレには守るべきものがある、倒れるわけにはいかない」 その信念は少年を強くした。
いつしかリョウは街でも評判のストリートファイターとなり、優しき心と修羅の拳を持つ「無敵の龍」へと成長したのであった。
そして同時に、再びリョウたちの前に姿を現したロバートもまた、「最強の虎」へと成長していたのである。
そしてそんなある日、その事件は起こった。何者かにより最愛の妹、ユリが連れ去られてしまったのだ。
「誰が?!何のために?!」
わずかな手掛かりを元に、リョウとロバートはサウスタウンを駆ける。
10年前の交通事故・・・父、タクマの失踪・・・そしてユリの誘拐。
リョウは黒い宿命の渦を感じながらも、まだ見ぬ謎の敵に向けて、怒りの拳を震わせるのであった。
今、龍虎たちの運命の歯車が、ゆっくりと回り始める・・・。 |