〈2〉
今夜はちょっとしたパーティーが開かれる。
主催者が誰だったかは、心当たりがあまりに多すぎて、シェンもよく覚えていない。覚えているのは、招待されているのが自分ひとりだけだということだった。
シェンが招かれる時は、たいていそうなる。ゲストひとりにホストは数人、もしくは数十人。しかし、シェンがその招きを断ったことは一度もない。
この街での“神武(シェン・ウー)”の名は、そういう男の名前として人口に膾炙している。
そのパーティーに出向くために早起きして——といっても寝床から起き上がったのは夕刻だったが——身支度をととのえていたところに、ここしばらく音信不通だった年下の知人からの電話が入ったのである。
出なければよかったというのが、今のシェンの感想だった。せっかくのパーティーの夜だというのに、余計な大荷物を無理矢理に背負わされた気がする。
「大哥(アニキ)!」
腹を空かせた猛獣のように、不機嫌そうに背中を丸めて歩いていると、市場で声をかけられた。見ると、路上にたむろしていた若者たちがシェンのほうへとやってくる。
「よう、どうした?」
「どうしたじゃないっすよ」
シェンの周りに集まってきた若者たちは、そのほとんどがこの市場ではたらいている者たちの息子や甥っ子で、要するに、親の脛をかじって一丁前に粋がっているような、チンピラか穀潰しといわれるような連中だった。
もちろんシェンは、彼らひとりひとりのこともよく知らない。ただ彼らのほうが、ケンカに強いシェンを一方的に兄貴と呼んで、何かというとまとわりついてくるだけの話である。
「日暮れ頃からガラの悪い奴らが集まってきてるんスよ」
チンピラの中でもひと際声の大きな若者が、一応それでも気を遣っているのか、あたりをはばかるようにしていった。
「……あいつらひょっとして、兄貴が狙いなんじゃないんすか?」
「おまえらが身構えることじゃねえだろう。確かにそいつらの狙いはオレだがな。ちょいと呼び出されて、今から顔を出してくんのさ」
それを聞いた若者たちが、いっせいに息を呑むのが判った。
「そ、それじゃ俺たちも……!」
「いらねえよ」
「けっ、けど——」
「招待されてんのはオレだけなんだ、てめえらなんか連れてったら、オレが礼儀知らずだって笑われちまうんだよ。……だいたい、ヘタすりゃ死ぬぞ、てめえらじゃ」
シェンはにべもなくいい放ち、若者たちを押しのけて歩き出した。
そんなシェンを追いかけてくる若者はひとりもいなかった。シェンを慕っているように見えても、命のやり取りをするまでの度胸はない。結局、そこまでの連中なのだろう。
だが、それでいいとシェンは思っている。
シェンはいつもひとりで闘ってきた。誰かを頼ったこともないし、頼ろうとも思わない。もし誰かほかの人間と肩を並べて闘うことがあるとしても、それはその強さを素直に賞賛できる相手でなければならず、そしてシェンにとっては退屈なことに、そういった人間はそう多くはないのだ。
おそらくあと5年待っても、あの若者たちの群れの中からは、シェンのお眼鏡にかなう人間は出てこないだろう。