〈2〉
「——暗殺?」
手にした写真をしばらく見つめていたナガセは、“彼”の言葉に首をかしげた。
「この女を?」
「ああ、そうだ」
がらんとした広間に、男の声がうつろに響き渡る。
ナガセに背を向けて立ち尽くす“彼”の視線は、窓の外の、雷光が踊る嵐の夜を見据えているのだろうか。
羅紗張りのソファに腰を降ろし、蝋燭の淡い光に写真を透かして眺めてながら、ナガセはいった。
「——でもおまえ、こいつにも招待状を送ったんだろ?」
「送った覚えはない」
「え? じゃあどうやって参戦してきたんだよ、今度の大会にさ?」
「少々イレギュラーだが……招待状を受け取った格闘家から譲り受ける、という手段がないわけではないな」
「譲り受ける? 奪い取るの間違いじゃなくて?」
「無論、譲渡の方法が平和的だったか暴力的だったかは私にも判らないがね」
長い髪を揺らし、“彼”は喉を鳴らした。薄気味の悪い笑いだった。
「いずれにしろ、世界最強を決めるという謳い文句がある以上、そうした乱入者にも参戦を認めなければならんのがこの大会のならわしだ。……そういう“伝統”があるのだよ、キング・オブ・ファイターズには」
「バっカみたい」
ソファの肘掛に頭を預け、ナガセは横になった。
「——でもまあ、どういう理由があるのか知らないけど、要するにさ、おまえはその女にここへ来てほしくないわけだ?」
「少なくとも、今はまだね。……今はほかにやらねばならないことが多すぎる」
「で、こいつ何モンなわけ? 知り合い?」
「それについてはきみが関知するところではない。きみはただ私の指示にしたがえばいいだけだ。……いいかね、“タイプN”?」
「判ってるって。確実に仕留めてくればいいんだろ、こいつを?」
「いや、直接ことに当たるのは“タイプD”——ミスター・デュークだよ。きみには彼のサポートに回ってもらう」
「え〜?」
“彼”の言葉に、ナガセはあからさまな不満の声をあげて身を起こした。
「——どうしてそうなるわけよ? ターゲットをこっそり始末するならデュークちゃんよりわたしのほうが向いてるじゃん! 適材適所ってコトバ知んないの、おまえ?」
「きみの不満は判らんでもないがね、“タイプN”」
“彼”はゆっくりとナガセを振り返った。肩越しに少女を捉えた瞳が、水銀のようなどろりとした輝きを放って笑っている。
「〈メフィストフェレス〉を潰され、ミスター・デュークは上級幹部としての立場と面目を失った。彼には再起のチャンスをあたえてやらねばならん」
「最後のチャンスってこと?」
「最後になるかどうかは彼のはたらき次第だよ。——とにかく、きみの任務はミスター・デュークのサポートだ」
「じゃあさ、もしデュークちゃんがしくじったらどうすんの? この女、見逃していいわけ?」
「その時はきみがやりたまえ。……できるものなら」
「————」
そのいい方がどこか自分を馬鹿にしているように思えて、ナガセは“彼”の背中を軽く睨んだ。 |