〈5〉
「——派手にやりすぎて地元の官憲の介入を許すとは、あまりほめられたことではないな」
華美な装飾のほどこされた椅子に悠然と腰を降ろし、“彼”は笑った。
正面のモニターには、あの晩、ナガセが記録して持ち帰ってきたルイーゼ・マイリンクとの闘いが映し出されている。
「消防団だの警察だの、駆けつけてくる連中までひとり残らず始末していいんだったら、あの女にとどめを刺すまでやってたよ。途中で戻ってこいって連絡してきたのはおまえじゃん」
「そこまでやったのではただのテロだよ。……女ひとりを始末するのにそこまで大騒ぎしてどうするね?」
肩越しにナガセを一瞥した“彼”は、長い脚を組み替えて溜息混じりに続けた。
「……もっとも、あの晩は最初からイレギュラーが多すぎた。きみだけを責めるのは酷というものだろう」
「そういやデュークちゃんはどうなったのさ?」
「招待状を持たせてトーナメントに参戦させたよ。大会中にあの女と当たることがあれば、その時こそ彼には本来の任務を果たしてもらおう」
「んじゃわたしは?」
「きみにも同じ任務をあたえよう。KOFの名にふさわしい真に強い者だけを残し、弱者は淘汰してきたまえ。そして、もしまたあの女に会うことがあれば——」
“彼”はそれきり口を閉ざしたが、そのいわんとするところはすぐに判った。
「…………」
暗い部屋のドアにもたれかかり、ナガセはモニターをじっと見つめた。
ナガセ視点から撮影された記録映像は、それを見るナガセに、嫌でもあの夜の闘いの一部始終をまざまざと思い起こさせる。ルイーゼと対峙した時のあの違和感、彼女が持つ不思議な力——。
ナガセは“彼”の背中に視線を移した。
「あいつ、何者?」
「ルイーゼ・マイリンクのことかね?」
「あの女、あの炎に巻き込まれたのに生きてたんだろ?」
「彼女が不慮の死を遂げればそれなりにニュースになるはずだよ。彼女は祖国ではちょっとした有名人だからね」
「あいつ、ただの人間じゃなかった」
「さもあらん、この大会に出ようという以上、普通の人間であるはずはない。それはきみも承知の上だったのではないかね、“タイプN”? それとも、始末するのに手間取ったのは、彼女が普通の人間ではないことに驚いたから——とでも?」
「カッコ悪い言い訳なんかしないよ」
ナガセはきびすを返してドアのノブに手をかけた。
「……次に会ったら絶対に始末する。何者なのか知らないけど、あの女、決勝になんか絶対に進めさせやしないから」
「そう願いたいものだ」
底意地の悪い“彼”の笑い声を背後に聞きながら、ナガセは部屋を出ていった。
巨大なモスクの屋根の上に登り、星を見上げ、ナガセはあのタブレットを口に放り込んだ。
今夜はいつもより、それが苦く感じられた。 |